暗闇

 この暗闇は、ヤコブにとって彼の人生の陰の部分を表しています。彼の罪や後ろめたさがこの暗闇の中にあるのです。ヤコブは今、一人になって、この自分の陰の部分と一人向き合おうとしています。彼は兄エサウと父イサクを欺(あざむ)きました。エサウの「長子の祝福」が欲しい為に母リベカと計略をたてて、父イサクを騙(だま)したのです。兄エサウはそのことを根に持って弟ヤコブを憎むようになり、殺意まで持つようになったのです。この事を知って母リベカはヤコブに逃げるように勧めます。そのようなわけで、ヤコブは兄エサウを避けて故郷から離れました。ところが、考えてみて下さい。それにもかかわらず、ヤコブは神様から祝福を受けて念願が叶ったというのですけれども、果たして幸福で嬉しい人生になったでしょうか。兄を騙(だま)したという後ろめたさと、いつ兄が襲って来るかわからない、そういう不安の中で生きていたのではないでしょうか。人には決して言うことの出来ない、暗い過去におびえて生きる人になったのです。