不条理

 不条理という問題に直面したのはヨブだけではありません。ユダヤ人がユダヤ人というだけで虐殺されたホロコーストの体験も不条理でした。皆様も読んだり聞いたりしたことがあると思いますが、その不条理を伝えた本の一冊が、精神医学者のヴィクトール・フランクルの著した「夜と霧」でありました。彼は、ユダヤ人というだけの理由で逮捕され、アウシュビッツ収容所に送られ、彼の両親と妻と子供はガス室で殺されたり餓死をし、彼だけが奇跡的に生き伸びたのです。彼の本の中に次のような一節があります。
「人生から何を期待できるかが問題なのではなくて、むしろ人生が我々に何を期待しているかが問題なのである」。
アウシュビッツから解放されて数年後の著作でありますが、「人生から何か、私達が与えられるのではないか、何か貰えるのではないかと期待して生きるのではなく、正しい行いによってむしろ人生に答えを与える生き方をするのが重要なのだ」というのです。
こんなフランクルの人生観に触れて、自分の生き方を180度転換させたのが、国際政治学者の姜尚中(カン サンジュン)です。在日コリアンとして生れ、苦しい青春時代を通して絶えず彼を悩ましたのは、自分はなぜ生きているか、であったといいます。「悩むことにも意味が」「病むことにも意味が」というフランクルの言葉に触れて、目からうろこが落ちる体験をしたと言います。